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大阪高等裁判所 昭和52年(ラ)24号 決定 1977年3月28日

抗告人 中野やすよ(仮名)

主文

一  原審判を取消す。

二  本籍大阪府○○○市○○○×丁目×××番地の××筆頭者中野やすよの戸籍を全部消除し、本籍大阪府○○市大字○○○×××番地の××戸主中野一郎の戸籍(除籍)につき、昭和

二九年六月二一日付除籍事項を消除のうえ、同戸籍を回復すること、を許可する。

理由

一  本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

二  本件申立ては、抗告人の長女恵子の離婚に伴う戸籍処理上の過誤につき訂正を求めるものと解されるところ、一件記録によると、原審判一枚目裏九行目から二枚目表八行目までの事実を認めることができる。

しかしながら、現行戸籍法(昭和二三年法律第二六〇号、以下「新法」という)一二八条一項によれば、新法施行後一〇年を経過した後、命令の定めるところにより新法によつて改製されるまでは、旧法(新法施行前の戸籍法旧規定)の規定による戸籍が新法の規定による戸籍とみなされる。従つて、右命令による改製前においては、新法による新戸籍編製の事由が発生しないかぎり、新法の規定によるものとみなされた旧法の規定による戸籍はそのまま維持されなければならない。ところで、抗告人の長女恵子の離婚に関しては、新法一九条一項但書に従い、申出による新戸籍が同人につき編製されたものであつて、離婚による復籍を伴うものではないのであるから、恵子の離婚は、いかなる意味においても、抗告人について、新法により新戸籍を編製すべき事由に該当しないことが明らかである。

そうすると、「子の離婚届出」を原因とする原審判別紙記載(一)の旧法の規定による戸籍の除籍ならびに同記載(二)の新戸籍編製はいずれも錯誤によるものと解すべきであるから、戸籍法一一三条(前記新法)に基づき、右(一)の戸籍は「子の離婚届出」に伴う昭和二九年六月二一日付の除籍事項を消除のうえ回復されるべきであり、右(二)の戸籍は全部消除されなければならない。(なお、これにより回復される(一)の戸籍は、同法一二八条一項の規定に基づく昭和三二年法務省令第二七号により改めて改製されるべきである。)

以上の理由により、本件申立を却下した原審判は不当であるから、家事審判規則一九条一項、二項によりこれを取消したうえ、審判に代わる裁判をすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 荻田健治郎 尾方滋)

参考 抗告の趣旨

原審判を取消す旨の裁判を求める

抗告の理由

一 原審判によれば別紙(二)の戸籍の戸籍事項欄および抗告人の身分事項欄の各記載はその経過を明らかにしたものであるにすぎないからこれを訂正する必要はないとして却下されているけれども、「子恵子離婚届出昭和弍拾九年五月弐拾日広島県○○郡○○村長受附同年六月弐拾壱日送付、別に新戸籍編製により○○市大字○○○×××番地の××中野一郎戸籍より入籍」は本来やすよとは関係のないことであるから、やすよ欄に記載されるべきでなく、別に末尾に長女恵子の欄を設けてそこえ記載せられるべきであると考えますので本件即時抗告に及びました。

原審(大阪家昭五一(家)三二五八号 昭五二・一・三一審判)

主文

本件申立を却下する。

理由

一 本件申立の要旨は、

(1) 申立人は以前戸主中野敏一の妻であつて、同人の死亡により当時六歳の長男一郎が戸主となり、申立人はその戸主の家族の一員として別紙(略)(一)の戸籍に記載されていた。

(2) ところが新民法、新戸籍法の施行により、その後長女恵子が離婚して復籍するに際し、申立人が筆頭者となり未婚の子である上記一郎を家族とする別紙(略)(二)の新戸籍が編製された。

(3) しかし、これは長女恵子の離婚を理由とする以上、申立人の戸籍に恵子も記載されるべきであつた筈であるのに、同女については別個に別紙(略)(三)の戸籍が編製された。

これは誤りであるからそれぞれ所要の戸籍訂正をなすことの許可を求める。

というものである。

二 そこで関連戸籍につき調査したところ、申立人主張のとおり別紙(略)(二)、(三)の各戸籍が編製されているが、別紙(略)(三)の戸籍は申立人の長女恵子が昭和二九年五月二〇日広島県○○郡○○村長へ夫白井洋一郎との協議離婚届出をなし、その際婚姻前の氏に復することになる同女が新戸籍の編製の申出をなしたため戸籍法第一九条により同女につき離婚復氏に伴う新戸籍として昭和二九年六月二一日付で編製されたものである。そして、そのときに、当時まだ別紙(略)(一)の戸籍であつた申立人らの戸籍につき同日付で別紙(略)(二)の新戸籍が編製されたのであるが、これは別紙(略)(一)の戸籍が現行戸籍法施行前の旧戸籍法の様式によつており、一応申立人とその子の一郎の両名だけで現行戸籍法第六条の編製基準に合致する同氏の親子のみの在籍する戸籍ではあるが、申立人の中野一郎が戸主となつていて同法第一四条の戸籍記載順序に反する記載になつているので、戸籍法第一二八条第一項によりいずれ改製されることが必要になるものであり、これを上記恵子の離婚復氏に伴う新戸籍編製の機会に現行戸籍法の定める新様式で改製したものが別紙(略)(二)の戸籍であるものと認められる。

(なお、このような場合、昭和三二年六月一日付民事甲第一、〇〇二号法務局長、地方法務局長宛民事局長通達の第五項(3)に従い改製戸籍が編製されるべきものであるが、上記改製は同通達前に行われているので、同じ趣旨で別紙(略)(二)の新戸籍を編製し、同時に別紙(略)(一)の旧戸籍は全員除籍につき消除する取扱いをなしたものと思われる。)

三 従つて、上記中野恵子が申立人の戸籍である別紙(略)(二)の戸籍に入籍せず別に別紙(略)(三)の戸籍になつているのは同女の新戸籍編製の申出によるものであり、またその機会に申立人の戸籍について旧戸籍の改製が行われたもので、別紙(略)(二)の戸籍の戸籍事項欄および申立人の身分事項欄の各記載はその経過を明らかしたものにすぎないから、これを訂正する必要はなく、結局申立人の関連戸籍についての訂正の申立は理由がないものといわなければならない。よつて本件申立は失当であるから却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高橋史朗)

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